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京都府のほぼ中央、北は若狭にも近い山あいの町、南丹市美山町。山里の恵み豊かなこの地で、清涼な空気に包まれてフレンチを堪能できるのが「オーベルジュ ナカザワ」だ。オーナーシェフの中澤守弘氏が、かつて修行した南仏のオーベルジュを再現しようと選んだ地に、レストランと宿泊施設のコテージが並ぶリトルワールドである。しかも宿泊客は1日1組だけ。中澤シェフの作りだす豊潤な食の世界を味わい尽くし、そのまま夜の空気に包まれて夢路をたどれるぜいたくに浸れるのは、たった1組である。万難を排して、その幸福を実感したいオーベルジュだ。

インタビュー

インタビュー

作り手の顔が見える安全・安心の食材を使った料理を、六感まで駆使して召し上がって頂く
オーナーシェフ

中澤守弘氏に聞く

オーナーシェフ 中澤守弘氏:

1977年、日本国内での修行を経て渡仏。パリ、南仏、ブルゴーニュ、さらにベルギーで修行を積む。1979年、帰国後京都市中心街で「シェ・ナカザワ」を開業する。1986年には同市西京極に移転。2000年、南仏のオーベルジュでの修行店と同じ環境を求め、現在の美山町に再移転し、「オーベルジュ ナカザワ」をオープンする。2004年に宿泊施設(コテージ)、2006年に「ブラッスリー カンパーニュ」をオープン。2008年には京都府より「現代の名工」の称号を授与。2010年農林水産省より「地産地消の仕事人」に認定、2011年には同省より「ボランタリー・プランナー」に任命される。

「かやぶきの里」で知られる京都府南丹市美山町、この風光明媚な地に、かつて京都市内で「シェ・ナカザワ」のオーナーシェフとして名を馳せた中澤守弘氏が営む「オーベルジュ ナカザワ」がある。山に囲まれた静寂な地にひっそり建つこのオーベルジュ、部屋はコテージがたった1つ。つまり1日1組限定なのだ。この贅沢な空間を作った中澤氏にお話を聞いた。

南仏のオーベルジュを再現したくてこの地へ……

まずはオーベルジュ開業の経緯をうかがった。「元々日本の食のあり方に疑問を持っていたんですよ。たとえば卵であれば、ちょっと形がちがってケースに入らない、というだけでランクが下がってしまう。そんなのないだろうと思いましてね、よく流通の方と議論をしましたよ」「自然の恵みをそのまま享受して、ありのままに使わせて頂くという環境がないのです。そしてその背景には、この国が抱える様々な問題点がある。それがだんだん見えてきました」

 

問題点とは、どのようなものでしょう?

 

「そう……食材への不安感、その背景にある自然の破壊、行き先のない農業の現状……いろいろな思いが交錯しました。そして、最終的にはそういった厳しい状況に対して何ら有効な手を打たない行政への不満が最も高かったですね。そのようなやるせない気持ちを抱える中、かつて働いた南仏のオーベルジュを再現したいという思いがふつふつとわいてきたのです」「日本では見向きもされないようなゆがんだ完熟トマトが普通に流通し、それがまた何とも美味しい。また、同じお客様が毎年訪れてくれて、もうそのオーベルジュが故郷のようになっていくという時間の流れ。そういった世界が脈々と受け継がれてきているのです」「シェフの息子が後を継ぎ、お客様の子供さんが大人になって今度は自分の子供を連れて来る……。オーベルジュだけではありません。パリのレストランでもそういう世界があります。それが何とも心地いいんですね。そのようなことができるのが『歴史』だし、国が違ってもそれは大切なことだと思いますよ」

 

たしかに「オーベルジュ ナカザワ」には、故郷のような温かみがある。
「お客様の中には、近くの川で水遊びをして『久しぶりに川に入った!』と昔を懐かしむ方も多いですよ。また、カエルやカブトムシを初めて見たという子供も珍しくありません。いかに私達の暮らしが自然から乖離しているか、ということです……」
シェフはそういう子供のために、虫などを見つけるとさりげなく目にとまる所に置いてあげるということだ。目を丸くする子供の生き生きした表情が目に浮かぶようだ。
「こちらに来る前は、京都市内で長い間店をやっていましたから、その頃からのお客様もいらっしゃいます。小さな頃から知ってる方は、今でも私のことを『おっちゃん』と呼びますし、私も昔のまま『○○ちゃん』と呼びます。そういうふうな関係がずっと続いていくのは心地いいし、何よりうれしい。もっとも何十年も前の料理を出してくれ、と言われると困るのですが(笑)」
こういう「時」の積み重ねが、何とも言えない穏やかな空気を醸し出してくれるのだろう。

 

体が喜ぶ料理をお出ししたい

中澤シェフに料理のテーマをうかがうと、即座に「体が喜ぶ料理」というお答えを頂いた。 「私も料理人としてのプライドがありますから、『食べておいしい』というのは当然のこと。しかし、それに加えて召し上がった方の体が喜ぶような料理を心がけています。その最良の方法が『地産地消』ではないでしょうか?」 「古くからその土地に育ち、十分に力を蓄えた時期に『旬』を迎えた食材には、無理も無駄もありません。そういう物は薬にも、毒消しにもなるのです」 「体が喜ぶいうことは、その味を要求しているからです。たとえば、疲れた時に甘い物が自然と食べたくなりますよね。それと同じことです。ですから、私の役割は、里の恵みを仲介し、いかにおいしくお客様にお出しするか、という点に尽きると思います」

 

どこまでも自然に対して謙虚な中澤シェフ。しかし、意外な過去も披露してくれた。
「もっとも……昔、京都市内でやっていた時は違っていたんですよ。お客様に『来月のメニューはこれだ!』と1ヶ月前にはメニューを送ってね。そう、『ボクの料理を食べてみろ!』という感じでした」
「ですが、こちらに来てからそういうのはまったくなくなりました。何よりお客様の体が喜ぶような料理をお出ししたいと思っています。そこで、ブラッスリーの方は、お客様の様子がその場で分かるようにオープンキッチンにしました。緊張なさっていれば声をおかけしますし、『ゴルフ帰りの方だな』と思えば、少しだけ味付けを濃い目にします。一口目の反応や表情を見れば、どのように感じられたかは分かりますからね」
「一番さびしいのは、あまりに忙しくて『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』だけで終わってしまう時です。せっかくここまでお越しになられて、ほとんどお話もせずにお帰り頂くというのは本当につらいんですよ」

ただ食べておしまい、というのはもったいないですよね?

 

「残念ながら、日本人は食事を『口』と『グルメ』だけの世界にしてしまいがちです。しかし食事というのは味覚だけではなく、五感……いや六感まで駆使して味わうものだと思います。たとえば風の音や川のせせらぎ、鳥の声……四季を通じていろいろな音が満ちあふれています。そういったものと一体になって頂くのが本当の食事ではないでしょうか?」
「でもね、たまにいらっしゃるんですよ。『ここは美味しいって聞いたから』とタクシーで乗りつけて、食事だけしたらさっさとお帰りになる方が……」
何とももったいない話である。

 

立場を越えて手を取り合い、日本を再生させる

それにしても、やはり気になるのは1日1組というコテージだ。そのお話をうかがおうとすると、「ここは、ほとんど自分達で作ったんですよ」シェフが笑う。

 

え? 作られたんですか?

 

「はい。やれるところは家族で手分けしてね、だからたとえば壁の塗り方を見れば分かりますが、違ってるでしょ? 私と妻の塗ったところは違うんです。屋根にしても、レストランはやってもらいましたが、コテージは私、自宅の方は息子と分担して張りました。そうやって家族みんなで作り上げたのですから、愛着もひとしおですよ」もうそれぞれの建物が家族のようなものですね。「その通りです。みんなで力を合わせたおかげで家族の『絆』が生まれ、ここが故郷となったのです」


訪れた瞬間から感じていた温もりは、決してシェフとマダムのお人柄によるものだけではなかったのだ。家族という絆、それがゲストの心にしみいるのであろう。「本当のおもてなしというのを考えた時、やはりお客様をたくさん入れるのでは無理だと思いました。それと、1部屋だけにして2年くらい先まで予約がとれないようなオーベルジュにしたいという理想もありましたね。パリにあるんですよ。息子が大人になった時にとか、20年後にとかいうような予約をされるお客様が主のお店がね。それはもう素敵な世界です」「たしかにこういう辺鄙な地でこのスタイル、採算という視点で考えると大変ですが、市内で様々な思いをかかえてやっていくぐらいなら、この魅力的な土地で理想を追求したかったんです。移転を決めてからはね、もう心もそぞろでした(笑)。だけど実際は大変ですよ。理想だけでは食べていかれないし、かと言って理想を論じなければ残らないし……」

 

理想という言葉が何回かシェフの口にのぼったので、今後の展望や夢をおうかがいした。「日本は今、大きな試練に立たされています。『再生』ということがしばしば言われますが、特に『食』という面で考えると、農林水産の部分で6次産業化が発達しなかったら厳しいんじゃないでしょうか」「たとえば、ここ美山には素晴らしい食材があるのですが、お客様は『かやぶきの里』に寄られてもほとんど食事はされない。これではいけません。やはり地域が一体となって、みんなで盛り上げていかないとお客様の目には止まらないのです。これは都市、地方関係ありません。どちらの人間も業種を越えてコラボレーションしてやっていかなければならないのです。そうしないと先はありません」

 

 

 

 

地域資源と産業を連携させて活用する「6次産業化」、2011年、中澤シェフは農林水産省よりその一翼を担う「ボランタリー・プランナー」に任命された。広い視野で物事をとらえている証拠だ。もちろんオーベルジュに対する思いも熱い。「オーベルジュは今のところ関東圏が中心です。人の集まりを考えると仕方ないのですが、それでは一過性の『ブーム』に終わってしまうおそれがある。ですから私は、関西から沖縄といったエリアにもオーベルジュを広げていきたいんですよ」「オーベルジュの経営者はみな、『おもてなしの心』を知っています。そういう施設が全国に広がることで、その存在が歴史に残るものになっていくんです」

 

シェフがふと間を置く。
「……そして、オーベルジュ協会が日本を立て直していくというぐらいの意識を持って、私はこれからもいろいろな形で活動していきたいと思っています」
終始笑顔を絶やさなかった中澤シェフだが、最後の一言にこめられた力には、オーベルジュを通して日本を思う強い心が満ちあふれていた。

 

満ち足りた時間は瞬く間に過ぎ、「オーベルジュ ナカザワ」を辞する時となる。何だか故郷から都会に戻るかのような気持ちになる。見送りに出て頂いたシェフとマダムの姿が見えなくなるまで、何度も手を振った。 バスに乗り、あの素敵な空間を記憶に刻み込もうと窓に目をやった。するとどうだろう! お二人がバスに向かって手を振って下さっているではないか……。
こうして「オーベルジュ ナカザワ」は幾多のお客様の故郷となり、その思いは子供に、そして孫に脈々と引き継がれていくのであろう。

食の世界

食の世界

目の前の素材をしっかり見つめ、必要以上に手を入れないようにする

料理

美山の大自然に魅せられた中澤シェフが大事にするのは、地元の山の幸、近隣の若狭の海の幸といった自然の恵みを生かしたフレンチ。その時々にとれた素材と謙虚に向き合い、舌だけで味わうのではなく、木々の緑や鳥のさえずり、風の匂いといった自然に包まれたやすらぎを感じてもらうことを念頭に置いている。食べ終えた時に体が喜んでいるのが実感できる優しい味だ。また、ゲストが自らコテージで作る朝食も、地元美山の牛乳をはじめ、地物素材がふんだんに使われていて好評を博している。

食材

豊かな自然に囲まれているだけに、それぞれの季節に高品質の地物食材をそろえることができる。特に地元産の鹿肉料理は絶品だ。また、寒暖差の大きいエリアなので、野菜の味は格別。年に1週間ほどしか採れない純天然のマイタケなど、稀少な食材もある。さらに、山深い京都府の中央部に位置しながら若狭湾までは車でおよそ1時間という好立地なため、新鮮な海の幸にも事欠かない。山海の最高の素材がそろうぜいたくな土地の恵みを、存分に楽しみたい。

お酒

フランス各地のワインがセレクトされている。中澤シェフの繊細な料理に合うタイプの物が中心で、手頃な価格設定なのがうれしい。また、持ち込みもできるので、予約時に確認をするといいだろう。他に食前酒、食後酒、シードルと、いろいろな好みに対応できる品ぞろえだ。ノンアルコールのメニューももちろんあるので、お酒は……という人も周りと同じように楽しめる。

食空間

緑に囲まれたフレンチレストランは広々としており、ゆっくりと料理を味わうことができる優雅な空間だ。いっぽう「ブラッスリー カンパーニュ」はオープンキッチンで、中澤シェフとお話をしながらフランスの地方料理を気軽に楽しむことができる。また、朝食はコテージのキッチンで、好きな時間にゲスト自身が作るスタイル。天気のいい時はテラスで頂くこともできる。普段とは違う朝食の風景が大評判である。

スイーツ

料理同様、牛乳、卵、フルーツには極力地の物を使っている。たとえばブルーベリーの収穫時期であれば、早朝からシェフ自らが足を運んで最良の物を選ぶ。ブランマンジェには地元美山産の牛乳を使用。卵に関しては、アイスクリーム、ケーキなどメニューによって使う物を変える徹底ぶりだ。また、機械を一切使わず、鍋でじっくりと煮詰めて作る無添加のコンフィチュール(ジャム)は、お土産として買うこともできる。

メニュー

朝食〜PetitDejeuner
夕食〜Dinner
  • 美山牛乳

  • 地物野菜

  • ベーコン

  • 地卵

  • パン

  • レルヒさんも食べたスキー汁

  • 温泉玉子

(メニューは一例につき、変更する場合がございます)

  • 若狭湾海の幸のお菓子仕立て

  • フォワグラソテーと地鹿のサラダ

  • エスカルゴ

  • カブラと深谷葱のピュレスープ

  • 小浜産真鯛とオマールのポアレ

  • グラニテ(ムスー)

  • フランス産小鴨のロティ

  • コーヒーまたは紅茶

  • 桃のソルベ・地卵のパルフェ・美山

  • 乳のブランマンジェ・ガトーショコラ

  • キャフェ

(メニューは一例につき、変更する場合がございます)

アルバム

アルバム

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